2010年10月26日火曜日

巡回展の思い出(1) 永遠の平和の夢

 
 平和を願って交換された「青い眼の人形」アリス・ジョンストンちゃんと、答礼人形「ミス徳島」とが顔を合わせた展示会が、当資料館で開催され、会期最後の日曜日にお別れ会があった。

 お別れ会には、主催関係者と共に実行委員の一人として、『嵐の中に咲いた花・青い目の人形アリスちゃん』の著者・原田一美先生も臨席され、送別の辞を述べられた。



 先生は著書の経緯について簡単に述べられた後、生ける人に話すように人形に別れのことばをかけられた。私も、「ひとたびは微笑失せし人形の夢ぞ再び永遠にこはすな」という短歌一首を献じて展示会への賛歌とした。



 因みに、 先生は私にとって、教育者としても、児童文学作家としても優れた先輩であり、暫し、久闊を叙すところとなった。

 哲学者カントが「永遠の平和のために」を書いたのは1795年秋である。カントは、人間の理性に確乎たる信頼をおいて、日米の人形は、人間の情感に切々と訴えて平和の尊さを説いた。しかし、今なお、戦争や紛争は絶えない。我々は永遠の平和の実現のためにまだまだ、様々な努力をしなければならない。人間の尊厳をかけて。

(元・館長〔現・町誌編さん主任〕 笹田博之)

2010年10月25日月曜日

『松茂町誌』余話(2) -「同時代史」に悩む -

 
 今日(月曜日)は休館日でしたが、昼前から職場の会議室に籠もって、『町誌』の原稿を整理しておりました。

 現在、編集中の『町誌』は既刊(上中下巻、続編、同第2巻)の続編なので、ここ10年程を対象期間とした「同時代史」です。近世史研究者の私は、いつも古文書と四苦八苦して歴史を叙述してきましたから、現に生きて体験した時代を叙述する「同時代史」は、何とも不思議な歴史学のカテゴリーです。「歴史と呼ぶにはあたらし過ぎないか?」という、素朴な疑問もあります。

 それでも、時代の流れは速いですね。原稿を整理していると、「えっ、まだ10年しかたっていないのか。」という驚きが随所にあります。例えば「郵政民営化」を考えてみると、ほんの十数年前まで「郵政省」で、その後、「郵政事業庁」→「日本郵政公社」→「日本郵政株式会社(他4社)」と変わります。ほんと「十年一昔」ですね。

 やはり「同時代史」も、歴史学のカテゴリーで間違いないようです。

(主任学芸員 松下師一)

2010年10月20日水曜日

やっぱり「学芸員の研究」の基本は健康

 
 昨年の12月にも、ぼぼ同じテーマでホームページを更新したのですが、またしても健康の有り難みを痛感しています。巡回展が終了して「ほっ」としたのか、鼻も喉も惨憺たる有様で、昨日は1日中微熱が続きました。

 もともと酷い鼻炎があるので、田畑の畦や空き地にセイタカアワダチソウが群生しているのを見ては、「うわっ! こりゃやばい!」と思っていましたが、ついにやられました。

 今日は半日休暇を取って耳鼻咽喉科へ行き、アレルギーなどの薬をもらい、なんとか改善・回復してきました。やれやれ。

 そんな、こんなで、体調不良ですが、①『松茂町誌』の編纂、②展示替えの実施、③秋の文化イベントの支援、④夏の研究活動のまとめ、などをがんばりたいと思います。

(主任学芸員 松下師一)

2010年10月18日月曜日

巡回展(9) お別れセレモニー

 
 最終日(17日)の夕方、関係者と居合わせたお客様とで、ささやかなセレモニーをしました。この日を限りに、答礼人形「ミス徳島」の県内一般公開も終了です。

 まず最初は、徳島平和ミュージアムプロジェクト実行委員会 大原会長(徳島県立博物館長)のあいさつです。



 続いて、4か所の展示会場からの報告です。

 最初の会場「文化の森・県立博物館 会場」と、次の会場「つるぎ町・道の駅 会場」に関する報告は、県立博物館の長谷川 人文課長が担当しました。



 3番目の会場「海陽町立博物館 会場」は、同館ボランティアの郡司宏子さんから報告いただきました。



 特別ゲストとして、画家・鎌田さんのスピーチです。海陽会場から企画された「さし絵原画展」の二人の画家のうちの一人です。



 第4会場(最終会場)「松茂町歴史民俗資料館・人形浄瑠璃芝居資料館 会場」は、私が報告をしました。



 決して広くない展示会場に、20余名の方が出席してくださり、後方は立ち見になってしまいました。



 そして、来賓スピーチです。

 児童文学作家・原田一美先生による「ミス徳島」送別の言葉。



 「青い目の人形」アリス・ジョンストンちゃんの暮らす神山町から、神領小学校 大粟校長先生のメッセージ。



 そして最後は、居合わせた子どもたちから、お別れの言葉です。

「さようなら」



 「さようなら」



 セレモニー散会の後、よいご挨拶ができたので、「徳島新聞」の記者が取材をしていました。



(主任学芸員 松下師一)

 

 

2010年10月17日日曜日

巡回展(8) 最終日、悲喜こもごも

 
 今日(10月17日)は、巡回展の最終日です。

 朝から当館南側のグランドで野球大会が開催されていたこともあり、館の周囲には人と車があふれていました。午前中、館内も外ほどではありませんが、まずまずの客入りで、前日並に賑わっておりました。

 午後からは最終日のイベント、紙芝居「『青い目の人形』アリスちゃん」の上演です。子どもたちの来場が期待されたところですが、ちょっと人数が少なくなってしまいました。

1回目の上演中

 1回目の上演が15名、2回目の上演が25名というところです。

2回目の開演

 ちょうど南側グランドを挟んで反対側(一塁側)の中央児童館で、「第1回 児童館まつり」が開催されており、イベントの時間と対象者が重なってしまいました。残念です。

 でも、13日(水)の喜来小6年生「1日広報係」の作成したチラシを見て、3名の子どもたちが来場してくださいました。ありがとう。

 紙芝居を見た後は、記念として缶バッチのプレゼントがありました。よかったね。

缶バッチは製作実演でプレゼント

 2回目の紙芝居が終わったころ、原作者の原田一美先生が来館されました。もう20分早く来てくだされば、紙芝居を見ていただけたのに、・・・。残念です。

原田先生(右)、笹田元館長(左)

 加えて、午後3時半すぎから、俄然、次々と子ども連れの来館者がやってきます。どうやら「児童館まつり」が終わったようで、帰路、お立ち寄りくださったようです。う~ん、私のイベント企画力が拙いのか、そもそもお客様の流れは時の運なのか、難しい。

(主任学芸員 松下師一)

 

 

2010年10月16日土曜日

巡回展(7) 展示会場の外では…

 
 本日(10月16日)午後、巡回展「海を渡った人形と平和への願い」の展示会場の外では、阿波人形浄瑠璃芝居の定期公演が行われました。

玄関前舞台で阿波人形芝居上演
 
 「青い目の人形」アリス・ジョンストンちゃんや答礼人形「ミス徳島」を目当てに来場されたお客様も、思わず足を止めてご観劇くださいました。ありがとうございました。

思わず足を止めて観劇
 
 「ミス徳島」を取材にきたマスコミさんも、思わず人形芝居の撮影を始めてしまいました。

太夫・三味線も熱演
 
 明日(17日)は巡回展最終日、今回、県内で「ミス徳島」に出会える最後の1日です。午後2時からと3時から、「青い目の人形」をテーマにした紙芝居も上演されます(上演内容は2回とも同一です)。この機会をお見逃しなく、ぜひ松茂町歴史民俗資料館・人形浄瑠璃芝居資料館にご来館ください。

 ※ 徳島県立博物館と海陽町立博物館での紙芝居上演の様子は、「徳島平和ミュージアムプロジェクト 事業記録」のホームページへ!

(主任学芸員 松下師一)

2010年10月15日金曜日

巡回展(6) 展示と視覚障碍

 
 今日(10月15日)、視覚に障碍がある方と、音訳ボランティアグループ「まつばぎく」の方々が来館されました。音訳ボランティアとは、視覚に障碍がある方に、町の行政情報をお知らせするため、『広報まつしげ』などを音読してテープに録音しているグループのことです。

 ここ5年くらい、機会をみては視覚に障碍がある方と伴に、当館を利用してくださいます。ただ、難しいのは、「資料館」「博物館」「美術館」という施設が、「見る」ことを前提にした施設だということです。「見る」ことができない視覚障碍者に、どのように施設の良さを感じ取ってもらうか、正直これは至難の業です。

 私は、「触る」と「聴く」で代替するしかないと思います(まれに「臭う」もあるかな)。

 本日来館のきっかけは、「青い目の人形」や「ミス徳島」への関心でしたが、さすがに触ってもらうわけにいきません(他からの借用品です。私が許可できるものではありません)。そこで代わりに、館蔵資料の中から木偶人形(オープン展示の現代人形師の作品)に触ってもらうことにしました。「ミス徳島」の市松人形とは違いますが、ともに日本伝統の人形です。材料の素材や胡粉の触感、からくりのおもしろさ、髪の毛や衣装の仕様を感じていただきました。

まず、握手。最初は恐る恐る触ってみます。
 
 最初は恐る恐る触っていましたが、慣れてくると興味がわいて、積極的に人形の造作や素材を調べていました。

慣れてきました。これは何だろう?
 
 その上で、「青い目の人形」や答礼人形に関するビデオ(「ミス三重」をテーマにした作品)を聴いていただました。展示の理由を知ってもらい、雰囲気を理解してもらうためです。

 そして最後に、巡回展会場です。市松人形の「ミス徳島」と木偶人形は違う人形ですが、胡粉や髪の毛、衣装など、共通の部分もあります。そのイメージを参考に、音訳ボランティアグループ「まつばぎく」メンバーの詳細な実況解説によって、視覚の障碍と、触覚が使えないハンディを何とか補いました。どうでしょう、楽しんでいただけたのではないでしょうか。

「ミス徳島」を実況解説中
 
 お帰りの際、「まさか木偶人形に触れるとは思わなかった。」と、微笑みながら話してくださいました。

(主任学芸員 松下師一)

 

 

2010年10月14日木曜日

巡回展(5) 松茂小学校2年生が見学

 
 昨日(10月13日)、松茂小学校2年生の団体見学がありました。

 生活科の校外学習で、「公共施設」の見学でしたが、ちょうど巡回展の期間中だったので、「青い目の人形」と「ミス徳島」についても展示解説を聞いてもらいました。日米関係の歴史、戦争と平和の歴史を、2年生の皆さんはどんなふうに感じ取ったのでしょうか。

 わが国の未来を担う子どもたちに、「平和」と「友情」の大切さにについて、いろんな経験を通して学んでほしいと思います。

 え~、もちろん、本来の見学のねらいである「公共施設」についても解説しました。「資料館」は大切な文化財を保存・展示し、それを見て、大人も子どもも学習をする公共施設です。

 「観感楽学」(かん・かん・がく・がく)、「観て・感じて・楽しく・学ぶ」の精神で、大いに利用しましょう。

(主任学芸員 松下師一)

巡回展(4) 活躍しました「1日広報係」

 
 昨日(10月13日)、喜来小学校の6年生6名が、「仕事体験学習」として、当館の「1日広報係」に任命されました。巡回展をPRするポスター・チラシの作成と、学校内での掲示・配布です。

 2名ペアで作業を開始。最初は、会議室の中で相談しながら下書きを作成しました。



 清書は展示室の中、実際に展示を見ながら作業をしてもらいました。ご観覧のお客様には、ちょっとご迷惑をおかけしましたが、児童に「実物の魅力」「ライブ感覚」を体感してほしいと思い、あえて展示室内ワークショップで最後の仕上げです。



 できあがったポスター・チラシの原画は、すぐに印刷して、喜来小学校で掲示・配布されました。また、巡回展期間中、当館文化財展示室前にも掲示してあります。

 6名の皆さん、「1日広報係」お疲れさまでした。

(主任学芸員 松下師一)

2010年10月12日火曜日

巡回展(3) さし絵原画展

 
 巡回展「海を渡った人形と平和への願い」の関連企画として、10月17日〔日〕まで文化財展示室前で、原田一美著『青い目の人形 ― 海を渡った親善人形と戦争の物語 ―』さし絵原画展」を開催中です(観覧無料)。


 
 原田一美さんは、現代・徳島を代表する児童文学作家の一人です。本書は実話をもとにした作品で、昭和2年(1927年)に神領小学校にやってきた「青い目の人形」アリス・ジョンストンちゃんと、神領の人々の心暖まる物語です。

 本書には、物語のイメージを豊かにするさし絵(枡田努・鎌田邦宏 画)が、随所に掲載されています。今回、海陽町立博物館のご尽力・ご協力により、その原画の多くを展示することになりました。ぜひ、ごゆっくりご鑑賞ください。


 
  この展示が、戦争と平和を考える機会となり、日米友好の一助となれば幸いです。


 


 なお、今回の巡回展では、原田一美さんの著書の他にも、「青い目の人形」や答礼人形に関する複数の書籍を展示・紹介しています(※ 販売・貸出はしていません)。あわせてご覧ください。


 
 それと、当館恒例、元館長・笹田博之さんの短歌も掲示しています。今回の巡回展への思いを詠んだものです。


 
(主任学芸員 松下師一)

 

巡回展(2) アリスちゃんの洋服

  
 「青い目の人形」アリスちゃんと、答礼人形「ミス徳島」を見てくださいましたか。

 当館に展示中のアリスちゃんは神領小学校の制服を着ていますが、本来の洋服は右横に展示してあるワンピース型のドレスでした(下の写真)。この洋服を、皆さんはどのように感じられましたでしょうか。83年も前の洋服が、現在でも十分着られるように思いませんでしたか。


 
 日本は、明治時代に洋服が入ってくるまで、着丈・胴回りを自由に調整する着物文化でした。洋服文化においては、16世紀頃から、コルセットで体の形を整えることが広まり、18世紀に入ると、女性はウエストを細く締め付け、胸元の広いドレスが一般的になりましたが、いわゆる「子ども向け」の服装はありませんでした。

 ところが、18世紀後半、ルソーの自然主義の考え方が入り、「子どもの身体をきつく縛ったり、固定することは、身体の成長だけでなく、精神にも悪い影響を与える」と、言われはじめました。それで流行したのが、ワンピース型ドレスです。

 本来のアリスちゃんの洋服も、ワンピース型のドレスでした(下の写真)。とても着心地がよい、活動しやすい洋服です。また、洋服の生地は、木綿と思われますが、浴衣のような堅い素材の木綿ではなく、綿ローンの肌にやさしい生地を使用しております。


 
 そして、ペチコート(下着)の縁取りもご覧下さい(下の写真)


 
 洋服と共にレースが発展しましたので、ペチコートの縁どりのレースは、ボビンで製作された手作りのレースではないかと思われます。後に着替えとして日本で製作された洋服(さらに右のケースで展示)のレースと比較してみてください(下の写真)。違いがわかるでしょう。


 
 たかが洋服と思われるかもしれませんが、この小さい人形衣装の中に、洋服の形、レース、色、刺繍など、日本の歴史にないものがたくさん詰まっています。現在見ても大変感慨深く感じるのですから、当時の人達は、我々の想像のつかない程、驚かれたのではないでしょうか。

(学芸員 舩井由美子)

 

 

2010年10月11日月曜日

巡回展(1) はじまりました!

 
ご近所の仲良し主婦グループも見学
 10月9日(土)から、巡回展「海を渡った人形と平和への願い」が始まりました。

 3連休中、9日(土)に42人、10日(日)に78人、11日(祝・体育の日)に242人のお客様にご観覧いただきました。ありがとうございました。

 「青い目の人形」アリス・ジョンストンちゃん、答礼人形「ミス徳島」、いずれもかわいらしいですね。昭和2年(1927年)から83年間、途中、「戦争の時代」を乗り越えて、日米友好のシンボルとなった2体の人形に敬意を表します。

(主任学芸員 松下師一)

〔追伸〕今日から随時、巡回展に関する話題を掲載します。お楽しみに。


2010年10月2日土曜日

『松茂町誌』余話(1) - 自然のこと -

 
 久々の更新です。このところ『松茂町誌』続編第3巻の編集に苦戦しており、1日の時間が36時間ぐらい欲しい気分です。

 今、私が集中的に取り組んでいるのは、「松茂町の自然」についてのコラム執筆と、「松茂町の産業」についての原稿の取りまとめです。そんな仕事中に思ったのですが、つい最近(この10年間)の歴史をまとめる仕事なのに、意外と知らないことが多々あるものです。

 その代表的な例が、「松茂町の自然」で採り上げる「ルアー釣り」の話です。松茂町内を流れる「旧吉野川」は、どうも「ルアー釣り」の世界では全国的に知られた場所らしく、Webで検索してみると、旧吉野川での釣行記がたくさんUpされています。そういえば土・日・祝日には、私の通勤ルートの旧吉野川の土手際に、県外ナンバーの車がたくさん駐車しているように思います。たぶん、ブラックバスを狙った釣り人なのでしょう。

 どんな分野であれ、松茂町(旧吉野川)が「全国区」なのはうれしいことですが、いかんせん悩ましいのは、その対象魚が「外来種」であることです。「外来種」が生態系に与える影響については、今さら説明するまでもありません。

 なんとも、悩ましい「全国区」です。

(主任学芸員 松下師一)