2013年8月18日日曜日

オーストラリアの「博物館」探訪記 〔その3〕

  
  7月29日(月)から8月7日(水)までの10日間、松茂町が主催する中学生ホームステイ事業(夢フライト国際交流事業)に随行して、オーストラリアへ出張しました。全行程が教育プログラムになっており、随所でミュージアムや動物園・植物園(日本の法律ならば、博物館に相当する施設)を見学しましたので、そのショートレポートを連載したいと思います。

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  第3回レポートは、オーストラリア北東部・クイーンズランド州ゴールドコースト郊外にある「カランビン野鳥園」の教育事業です。

  私たち一行は、29日(月)夜に関空を飛び立って、翌30日(火)朝にケアンズ着、それから国内線に乗り換えて、同日午後にゴールドコースト空港に着きました。目指すニューサウスウェールズ州ケンプシー市は、それからバスに乗り換えて9時間程かかるので、その日はゴールドコーストで一泊です。

  「カランビン野鳥園」は、邦訳は「野鳥園」ですが、本来の英語は「Wildlife Sanctuary」ですから「野生生物保護区」と理解するのがよいでしょう。広大な保護区の一部に動物園が設けられており、今回見学・体験したのは動物園の部分だけです。

  園内に入り、木の上を見上げると、なんだかモコモコしたものがあります。

 そう、モコモコの正体は、すべてコアラでした。なんと、すごい数ですね。

 動物園の展示方法は、近年の日本と同様で、部分的に環境を復元したオープンスペースで飼育しているようです。

 オーストラリアの国の紋章にもデザインされているエミューですね。

 一部の動物は、来園者とふれあえるように、広場に放されていました。赤カンガルーも、体を横にしてくつろいでいましたが、ちょっと大型で近寄りがたい雰囲気です。

  そう思っていると、私の近くをワラビーの母子が通り過ぎていきました。

 広場の横にはフェンスで囲まれた池があり、クロコダイルが日向ぼっこしています。(当たり前ですけど、フェンスの向こうです。ふれあえません。)

 うーん、名前はわからないけど、巨大な緑のトカゲもいます。

 そして、池の中央には、全長10メートルを超える巨大なクロコダイルがいました。でかい!

 池を見回しながら高台に上がると、ガラスで仕切られた展示コーナーが並び、その一つでウォンバットが食事中でした。ガイドによると、夜行性なので、日中に行動していることは珍しいそうです。とてもラッキーでした。

 園内の散策を終えると、さあ、動物園の教育プログラム(飼育体験)の開始です。コアラ展示コーナーの前に集合して、日本語を話す園のスタッフがガイダンス(事前説明)をします。

 そしてエデュケイター(教育活動専任の学芸員)登場! ゆっくりと平易な英語(ただし、オーストラリアなまり有り)で、コアラの生態や飼育の要点などを解説します。
 私も当館の学芸員として、いろんな場面で解説をしますが、わかりやすい言葉づかいができているか、とても考えさせられました。

 「なんだ、なんだ。何が始まるんだ。」と、心配そうに(不思議そうに)見つめるコアラさん。

 松茂中学生による飼育体験開始。体験内容は、飼育広場の清掃(フンの掃除)と、餌やり(新鮮なユーカリを偽木に挿す)です。

 見慣れない「一日飼育員」たちに、びっくりしているコアラの母子。

 「・・・・・・・。」

 最後、小屋に集合して、体験学習のまとめです。コアラの保護や、人間と自然との関わりについて学びました。エデュケーターさん、日本語スタッフさん、ありがとうございました。

 なお、この園では、オプションとしてコアラをだっこして写真が撮れます(別料金サービス)。なんでも、クイーンズランド州ではだっこOKだそうです(ニーサウスウエールズ州では不可)。

(主任学芸員 松下師一)

2013年8月14日水曜日

オーストラリアの「博物館」探訪記 〔その2〕

  
  7月29日(月)から8月7日(水)までの10日間、松茂町が主催する中学生ホームステイ事業(夢フライト国際交流事業)に随行して、オーストラリアへ出張しました。全行程が教育プログラムになっており、随所でミュージアムや動物園・植物園(日本の法律ならば、博物館に相当する施設)を見学しましたので、そのショートレポートを連載したいと思います。

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  第2回レポートも、飛行機の乗り換えで立ち寄ったオーストラリア北部・ケアンズ市にある「ケアンズ植物園」です。植物園は、日本の法律では「博物館」の範疇に入りますが、オーストラリアではどうなのでしょうか? その辺の事情はよくわかりませんが、まあ日本流に考えて、博物館の仲間と位置づけて、ショートレポートを執筆してみたいと思います。

  飛行機の乗り継ぎ時間を利用しての植物園見学です。

  植物園のパンフレットによりますと、もとは資産家のコレクションとして発足した施設のようですが、現在は公共施設として運営されているそうです。

  私は歴史系博物館の学芸員なので、植物に関する専門的な知識はありませんから、主にディスプレーや解説パネル・案内サインを注視してみました。

  下の案内パネルは、無料の案内ガイドのサービスを告知するものですね。週に4日、ウィークデーの午前中にガイドサービスがあるようです。また週1回は、早朝からバードウォッチングのガイドサービスがあるのにも、とても感心しました。この方法は、当館でも検討してみる価値があるように思いました。

  現地旅行代理店の日本人ガイドが、簡単な案内をしてくれました。ありがとう。

  オーストラリア北部は亜熱帯で、独特のシダ植物の巨木があります。有袋類と同じように、この地で生き残った太古の植物ですね。ふと、某ハリウッド映画で、日本の侍がシダ植物の密林から出てきたシーンが思い出され、この地でロケされたのではないかと思いました。現地の日本人ガイドに問うてみると、「そのロケ地はニュージーランドですよ! ニュージーも進化から取り残されたシダ植物の密林があるはずです。」とのことでした。

  やはり欧米文化の影響から、寄付を募る標柱が至る所に立っていました。しかもその標柱、よく見ると上部に小穴が開いており、コインを投入できる仕組みです。

  「生殖と死」という、刺激的な言葉のコーナータイトルディスプレーがありました。何でしょう?


  じゃ~ん、頭上を見上げると、小学生の頃に図鑑で見たウツボカズラが栽培されています。

  そう、食虫植物の特集コーナーでした。食虫植物といえば肉食なのですが、この解説パネルによると、一部の食虫植物は葉っぱを食べるベジタリアンだそうです。

  「暗黒面に墜ちる」というディスプレーです。やはりあのSF映画を意識しているのでしょうね。食虫植物に捕らわれると、昆虫たちは「暗黒面」に墜ちてしまいます。

  「食虫植物の罠には2種類ある」という解説パネルです。ハエトリグサの写真が印象的です。

  ハエトリグサに挟み込まれた昆虫の写真が展示されています。

  食虫植物の展示コーナーを通り抜けると、芭蕉(ばしょう)の木を見つけました。西遊記の芭蕉扇を思い出しますが、実際の芭蕉の葉っぱはバラバラに裂けており、とても扇になりそうには思えません。下の方の若葉なら、芭蕉扇になるのでしょうか。

  そして、花と実(バナナ)を見つけました。こんな姿なんだ。びっくりしました。

  植物園内で、歴史系の解説パネルを見つけました。オーストラリアの先住民族であるアボリジニが、熱帯雨林の植物を、道具・武器・食料・薬・繊維・建材に利用していたという説明です。シンプルですが、古写真があることから、パネルを制作した学芸員の意図を理解することができます。

  そして出口、やはり寄付を求める標柱が立っていました。

  ほぼ全て英語のパネルでしたが、文章が平易で、写真やイラストが効果的に配されていることから、凡その内容は理解することができました。この植物園が、教育施設・学習施設として、堅実に運営されていると思います。

  ちなみに、寄付を募る標柱には、英語とともに、漢字で「寄付」と書いてありました。日本人の善意に期待しているのでしょう。

(主任学芸員 松下師一)

2013年8月13日火曜日

オーストラリアの「博物館」探訪記 〔その1〕

  
  7月29日(月)から8月7日(水)までの10日間、松茂町が主催する中学生ホームステイ事業(夢フライト国際交流事業)に随行して、オーストラリアへ出張しました。全行程が教育プログラムになっており、随所でミュージアムや動物園・植物園(日本の法律ならば、博物館に相当する施設)を見学しましたので、そのショートレポートを連載したいと思います。

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  まず第1回のレポートは、飛行機の乗り換えで立ち寄ったオーストラリア北部・ケアンズ市の郊外にある「キュランダ高原列車博物館」です。

 この博物館は、当初から私たちの視察先として予定されていたのではなく、7月30日(火)の朝食会場が同列車フレッシュウォーター駅構内のレストランだったため、食後の空き時間を利用して、レストランに隣接する小さな博物館を見学したというものです。

 レストラン横の小さな小屋が、博物館になっています。

 小さいですが、「ミュージアム(博物館)」という看板は立派です。

 館内に入ると、往時を偲ぶ古い道具類の背景に、立体的な風景画が描かれています。思ったより、教育効果・学習効果を考えた展示手法に驚きました。建物は小さくても、思いのほか魅力的な博物館です。

 額装された解説文には、キュランダ高原列車の歴史が紹介されています。もともは、金鉱石を掘削するための鉱山鉄道として敷設されたようです。

 壁面を埋め尽くす古写真のディスプレイも立派ですし、何より五感に訴える魅力にあふれています。

 谷を跨ぐ大橋梁の模型も、雰囲気がよく出ています。

 何より感心したのが、このジオラマ!

 私は土地勘がないので、このジオラマの緻密さがわかりませんが、その努力の程は伝わります。

 出口へ進むと、駅のホームへ出ました。

 1日1往復、この駅に列車がやって来ます。今は、往年の鉱山列車ではなく、観光用の旅客列車が、はるか山にあるキュランダ駅との間を走ります。

(主任学芸員 松下師一)

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※追伸
 帰国後、この鉄道(キュランダ高原列車)のホームページを見ると、この鉄道を利用した教育プログラム(なんと日本語版もあります!)が用意されていることに気づきました。なるほど、教育的な魅力に溢れた素敵な博物館があるはずです。