一昨日(3月9日)、ふと「徳島新聞」を見ると、寺戸恒夫先生が亡くなったという記事を目にした。
寺戸先生は、公式には何ら記録が残っていないが、当館設立にあたり常設展示室の基本コンセプトを提案された方である。
何分、私の就職する以前の事で定かではない部分はあるが、展示設計業者をアドバイスされたらしい。
寺戸先生は、自然地理がご専門であった。だから当館常設展示室は通史展示(古い時代から順に配列していく展示方法)になっておらず、テーマ(話題)ごとに配列され、随所に地図が多用されている。展示室を入ると「航空写真」と「地層の模型」があり、旧吉野川河口を新田開発した「耕地拡大の経緯」の紹介がある。次いで「自然災害と暮らし」、「災害に立ち向かう民衆生活」、「交通網の発達」、「農業・漁業の発達」と続く。いかにも自然地理の先生がアドバイスした「らしさ」が、展示構成に反映されている。
常設展示室の入口部分
実は、私と寺戸先生とには、ほとんど接点が無かった。当館が開館した20年ほど昔、私は徳島地方史研究会の新入生で、寺戸先生は徳島地理学会の会長であった。歴史と地理、隣接した研究領域だが両研究会(学会)の間に接点はあまり無く、しかも年齢・立場が大きく違った。
唯一の思い出は、1995年(平成7年)1月17日の出来事である。
その日の早朝、「阪神・淡路大震災」が発生した。徳島も相当揺れたが、神戸・阪神間や淡路島の惨劇はご承知のとおりである。幸い当館は大事に至らなかったが、それでも展示品の転倒や施設の小破などがあった。
その日の午後、従前から計画されていた徳島県市町村文化財保護審議会連絡協議会の「指導者研修会」が、徳島県教育研修センターで予定どおり開催された。私も、午前中に館内の保全作業を終えて、午後から松茂町の文化財保護審議会委員とともに参加した。その会の講師こそ、当時、徳島文理大学教授の寺戸恒夫先生であった。寺戸先生は「歴史的大地震の日に、自分が講演をするとは思ってもみなかった」とおっしゃいながらも、六甲山系の断層と直下型地震について、とても詳細な解説をされた。とても印象深い思い出である。
当館は今秋10月7日に、開館から満20周年を迎える。常設展示室についても、少し展示替えを検討しているが、寺戸先生ゆかりのコンセプトを継承しながら、より魅力的なものに進化させたいと思う。
寺戸先生のご冥福をお祈りしますとともに、あらためて当館常設展示室の学問的な向上・発展をお誓い申し上げます。
(主任学芸員 松下師一)